フジクレールワイナリー株式会社

EVENT & NEWSイベント&ニュース

TOP/EVENT & NEWS

EVENT & NEWS

2025.5.23

二人が目指すワインの未来。日本の未来

福井正一

フジッコ株式会社 代表取締役社長、フジクレールワイナリー株式会社のオーナー。1962年兵庫県生まれ。東北大学大学院農学研究科修士課程を修了後、1991年に花王株式会社に入社。1995年にフジッコに入社し、2004年に代表取締役社長に就任。2007年には京都大学大学院で博士(農学)を取得。健康志向の商品開発や食文化の発信に尽力し、2024年には黄綬褒章を受章。

フジクレールワイナリーは2023年に創業60周年を迎えました。
オーナーの福井と代表の澤村が取り組んできた軌跡を追いかけつつも時代は変化し続けており、ワイン作りの環境は厳しさを増しております。
気候変動や、世界のワイン需要の変化など、これからのワイナリーの未来について、二人がどのように考えているのかを紹介していきたいと思います。

1. はじまりの物語

澤村:久しぶりにこうして向かい合って話すのは、なんだか照れくさいですね。今日は改めて、福井オーナーと私がこのワイナリーを共に歩んでいくことになった「はじまりの物語」から、お話しできればと思います。

福井:あの頃、ワイナリーはちょうど55周年を迎えた時期でした。これからどうしていくべきか、真剣に考えるタイミングだったんです。
ワイナリーはフジッコの完全子会社でしたから、フジッコの未来ともどう重ね合わせていくか。あるいは独立の道を選ぶか、最悪の場合は閉鎖するという選択肢すら視野に入れて、社内外からあらゆる意見を集め、議論を重ねていました。
最終的に出した結論は、「一度フジッコ本体から切り離すべきではないか」というものでした。とはいえ、では誰がそれを担うのか――そのときに白羽の矢が立ったのが、親友でもあり、ワインの知識も持っていた澤村だったんです。
これまでフジッコの傘下で歩んできたワイナリーを根底から変えるには、外の血が必要だと感じていました。

澤村:思い返すと、本当に「青天の霹靂」でした。もちろんこのワイナリーの存在は、私も小さい頃から知っていましたし、なんとか継続できないかと相談にのってはいたんですが、自分が携わることになるとはまったく思っていませんでした。
でも福井オーナーの覚悟を目の当たりにして、「これは真剣に考えないと」と思い、ワイナリーにジョインすることを決意しました。

福井:せっかくここまで頑張ってきたんだから、どうしても諦めたくなかったんです。でも、最初は本当に大変だったよね。

澤村:ええ、本当に。変革を起こさなければならない中で、課題や困難が山積みだったのは間違いありません。その時期は、ワイナリーとしても耐え忍ぶ時期だったと思います。ただ、どんなときも感謝の気持ちを忘れず、前を向いて進もうと思っていました。

2. 環境の変化と地域との共生

澤村:ここからはワイン造りについてお話ししたいんですが、昔と比べてワイナリーを取り巻く環境は大きく変わってきています。気候変動や農家さんの高齢化の影響で、山梨県全体の葡萄収量も減少しています。
ワイナリーを変えていくには、まずこの課題に向き合う必要がありました。

福井:それはワイナリーだけじゃなく、フジッコ本体でも同じ悩みがあるんです。昆布は国内での供給が減ってきていて、漁師さんも高齢化で減少しています。海水温の上昇によって生育不良も起きている。
そうなると、我々自身が漁業に関わっていかないといけないし、漁師さんの負担を減らすような研究も必要なんです。これはワインや昆布に限らず、あらゆる産業で起きている問題だと思います。

澤村:私たちは葡萄や豆、昆布といった農水産業でチャレンジしていかなければいけない。ひいてはそれが、日本全体の他の産業の支えにもなればいいですね。

福井:世界全体がこの変化に追いつけていない状況だからこそ、私たちが解決の一翼を担えるように、これからも真剣に取り組んでいかないといけませんね。

澤村:それが地元農家さんや漁師さんの支援になり、地域活性化や貢献につながっていけば嬉しいです。

澤村貫太

フジクレールワイナリー株式会社 代表取締役社長(CEO)関西学院大学経済学学士、教育学修士、兵庫県立大学博士(応用情報学)、山梨大学ワイン科学士。福井正一氏との友情から生まれたワイン物語を完遂する為、山梨県に移住。山梨県北杜市武川町にて自社圃場40haを開設にあたり、土造りを自らの手で行い、社員一丸となって挑戦していってる。

3. 気候変動と向き合う:ワイン造りの課題と可能性

澤村:“ここ数年、本当に気候が読めなくなってきましたよね。我々も大学との産学連携で酵母の試験をしたり、地元に合った品種を育てたりして、どうにかこの気候変動に対応していかないとと思っています。”

福井:“葡萄は世界中で育てられてるけど、日本に合う品種って、具体的には何が適してると思いますか?”

澤村:“やっぱり甲州でしょうね。そもそもこの品種は、日本に根付いたハイブリッド型で、もう1,000年以上この土地とともに進化してきた。山梨って寒暖差が大きくて、湿気も少ないから、昔は農薬もほとんどいらなかった。だから甲州がここで育ったのも、自然な流れだったと思うんです。”

福井:“なるほど。世界的にも、最近はハイブリッド型が増えてきてますよね。”

澤村:“はい。私たちも、甲州やMBA(マスカット・ベーリーA)をはじめ、日本の風土に合った品種を育種していかなければならない時代です。百千(ももち)というブランド名には、私たちが目指す100周年、そして日本の1,000年のワインの歴史を携えて、世界に挑戦したいという想いを込めているんです。”

4. ブランドの哲学:私たちが目指すワインとは

澤村:“良い葡萄を育てる、素晴らしいワインを造る。それって、もはや当たり前のことなんですよね。でも、それだけでは足りない時代になってきてる。たとえばフランスでは、若者のワイン離れも進んでいるそうです。”

福井:“美味しいワインを作るだけでは続かないですよね。やっぱり、その先に“人”と“健康”が必要だと思う。”

澤村:“まさに。これからは、ワインがライフスタイルの中でどう位置づけられるか、人の健康とどう関わっていけるかが重要なんだと思います。”

福井:“商品と健康を、いわゆる学術的に結びつけるっていうよりも、ワイナリーの空気感とか、人との関係性とか。そういう“雰囲気”が、満たされるような健康につながると信じたいですね。”

澤村:“そうですね。ワインにはそういう力があると、私も信じています。”

5. 国際市場への進出と挑戦

澤村:“ここ数年、山梨のワイナリーが連携して、世界に甲州を広める取り組みを進めています。先日もロンドンでプロモーションを行ってきました。”

福井:“ロンドンですか。どんな反応でした?”

澤村:“あるんですよ、すごい体験が。あの有名なミシュラン三つ星『The FAT DUCK』に伺ったんですが、昆布を使った料理があって、即興で甲州ワインに合う料理を作ってくれたんです。あれは衝撃でした。”

福井:“ロンドンで昆布っていうのも驚きですが、向こうのシェフが即興でペアリングを出してくれるとは、それは本物ですね。”

澤村:その時にシェフに吟果甲州」を飲んでいただきました。このワインは私たちが新たにチャレンジしたもので、野生酵母を使用し、無補糖・無補酸、アルコール度数は9%と低め。まるでぶどうをそのまま食べたような自然な味わいを目指して造りました。その想いが伝わり、評価していただけたのが本当に嬉しかったです。自分たちのワインが国境を越えて受け入れられる「ボーダレス」な存在だと実感しました。

福井:“今はインバウンドも多いし、日本に来た人にこそ、まず日本ワインの魅力を知ってもらわないと。それが本国に広がっていくきっかけにもなると思います。”

澤村:“そうなんです。国内でも海外でも、知ってもらう活動は大事です。最近では、ワイナリーに外国の方が訪れる機会も確実に増えてきました。だからこそ、腰を据えて、じっくりと世界に向けた発信を続けていきたいと思います。”

6. 次世代のワインファンを育てる

澤村:「海外展開も大切ですが、国内で次世代のワインファンを育てる活動も非常に重要だと考えています。
クラノオトシリーズは低アルコールで若い方にも飲みやすいワインですし、さらに他のフルーツを使った展開ができれば、居酒屋などでも取り扱っていただける可能性が広がると思います。
また、2024年にはブランドのラインナップを一新して、4つのブランドに整理したことで、初めて弊社を知った方にも、どんなワインがあるのか分かりやすくなったと思います。ラベルデザインもご好評いただいており、今後もブランディングには力を入れていかなければなりません。」

福井:「私たちフジッコも、昆布や大豆といった製品は高齢の方が中心でしたが、若い世代に向けた新しい提案を進めています。“海の野菜”として位置づけ直して販売していくような戦略も必要になっています。
ワイナリーも同じで、これまでと同じ方法では若い世代には届きにくいですからね。2024年のブランド刷新はとても良い判断だったと思います。」

澤村:「フジクレールという名前ですから、やっぱりラベルに“富士山”は外せませんでした(笑)。」

福井:「あれは誰が見ても分かりやすくて、喜んでもらえるデザインですよ。」

7. 環境に優しいワイン造りへの道

福井:「サステナブルなワイン造りや環境配慮についてはどう考えていますか?
今や世界中のワイナリーがその視点を持ち始めていて、我々のワイナリーもそこに向けて取り組んでいます。」

澤村:「すでに減農薬・減化学肥料の取り組みを始めていますし、今後は無農薬にもチャレンジしていきたいと考えています。」

福井:「ぶどうを絞ったあとの搾りかす、いわゆる“パミス”の活用も真剣に考えたいですね。」

澤村:「はい。このパミスを使ってバイオマス素材にしたり、それを活用してチョコレート製品などの商品化も進めていきたいと思っています。
“無農薬で作る”ということだけがサステナブルではないと考えていて、資源を無駄にしない取り組み全体が重要だと思います。」

8. オーナーと社長が語る「理想の葡萄畑」

福井:「数年前に我々が大きな決断をして、『北杜武川ヴィンヤード』の開設に舵を切ったのは、まさに“理想のぶどう畑”をつくるためでした。
以前、ケンゾーエステート・ワイナリーのお店で畑の上を飛ぶドローンの映像を見たのは衝撃でした、その壮大な圃場に感動したのがきっかけです。やはり働く人自身が“自分もこんな畑で働きたい”と思える場所にしたい。
外観的にも美しく、ワイナリーやレストラン、オーベルジュのような宿泊施設を併設するのも素敵だと思います。教会のような施設があってもいいし、子どもたちがたくさん訪れるような場所にしたい。

澤村:「“人が集まる場所”にしたいですね。子どもだけでなく、親子で楽しめるような。
人が希望を持てる場所に。山梨から発信する情報拠点のような存在になればと思います。
自然環境を壊さずに、何を伝えられるのか。そこに挑戦していきたいです。」

福井:「まさに、それが大切ですね。」

9. 社員と共に歩むワイナリーの未来

福井:“やっぱり最後に言いたいのは、このワイナリーは人でできているということ。どれだけ設備が整っていても、どれだけブドウがよく育っても、やっぱり現場で汗をかいている社員がいるからこそ、ここまでやってこれたんだと思ってる。”

澤村:“本当にそう思います。毎日畑に立ってる栽培チームや、真夏でも真冬でも工場で醸造管理してくれてるメンバー、そして営業や企画、販売に至るまで、みんなが「自分たちのワイン」っていう気持ちでやってくれているのが伝わってきますよね。”

福井:“あとはやっぱり、社員一人ひとりがこのワイナリーで働いていてよかったと思えるような場所にしていきたい。キャリアや待遇だけじゃなくて、「生き方としてここで良かった」と思ってもらえるような、ワインだけではない“喜び”を感じられる場所を目指したいですね。”

澤村:“私もそれをいつも意識しています。働いている人の人生とちゃんと寄り添える場所。これからも現場の声をしっかり聞きながら、一緒に歩んでいきたいですね。”

10. ワイナリーが目指す地域社会との連携

澤村:“あと、私たちはワインを造るだけでなく、地域と共に生きる存在でありたいと思っています。例えば地元の学校と連携して子供たちにワイン造りを教える体験だったり、マルシェを通じて地元農産物を紹介する場を作ったり。”

福井:“フジッコも昔から地域とのつながりを大事にしてきましたが、今の時代はもっと踏み込んだ関係が求められていると思います。ワイナリーという“場”が、人と人、地域と地域をつなぐハブになれたらいいですね。”

澤村:“そういう活動を通じて、ワイナリーが地域の誇りになるような存在になりたいですね。『あのワイナリーがあるから、この町が元気になる』って思ってもらえたら嬉しいです。”

11. 次の世代へ:未来の「はじまりの物語」へ

福井:“私たちがこうして決断して動いてきたことが、次の世代の誰かの「はじまりの物語」になってくれたら嬉しい。”

澤村:“そうですね。いつかここで働く若者が『あの時福井オーナーと澤村が始めたチャレンジが、自分の今につながっている』って言ってくれたら、それだけでもやってよかったと思える。”

福井:“そうやって物語は続いていく。私たちはバトンを渡していくだけですからね。”

澤村:“一つひとつ積み重ねながら、次の100年に向けて、また新しい「はじまりの物語」を作っていきましょう。”

福井:“今日は本当にありがとう。これからもよろしくお願いします。”

澤村:“こちらこそ。未来を信じて、共に前へ進んでいきましょう。”

LATEST EVENT & NEWS最新情報