3. 気候変動と向き合う:ワイン造りの課題と可能性
澤村:“ここ数年、本当に気候が読めなくなってきましたよね。我々も大学との産学連携で酵母の試験をしたり、地元に合った品種を育てたりして、どうにかこの気候変動に対応していかないとと思っています。”
福井:“葡萄は世界中で育てられてるけど、日本に合う品種って、具体的には何が適してると思いますか?”
澤村:“やっぱり甲州でしょうね。そもそもこの品種は、日本に根付いたハイブリッド型で、もう1,000年以上この土地とともに進化してきた。山梨って寒暖差が大きくて、湿気も少ないから、昔は農薬もほとんどいらなかった。だから甲州がここで育ったのも、自然な流れだったと思うんです。”
福井:“なるほど。世界的にも、最近はハイブリッド型が増えてきてますよね。”
澤村:“はい。私たちも、甲州やMBA(マスカット・ベーリーA)をはじめ、日本の風土に合った品種を育種していかなければならない時代です。百千(ももち)というブランド名には、私たちが目指す100周年、そして日本の1,000年のワインの歴史を携えて、世界に挑戦したいという想いを込めているんです。”
4. ブランドの哲学:私たちが目指すワインとは
澤村:“良い葡萄を育てる、素晴らしいワインを造る。それって、もはや当たり前のことなんですよね。でも、それだけでは足りない時代になってきてる。たとえばフランスでは、若者のワイン離れも進んでいるそうです。”
福井:“美味しいワインを作るだけでは続かないですよね。やっぱり、その先に“人”と“健康”が必要だと思う。”
澤村:“まさに。これからは、ワインがライフスタイルの中でどう位置づけられるか、人の健康とどう関わっていけるかが重要なんだと思います。”
福井:“商品と健康を、いわゆる学術的に結びつけるっていうよりも、ワイナリーの空気感とか、人との関係性とか。そういう“雰囲気”が、満たされるような健康につながると信じたいですね。”
澤村:“そうですね。ワインにはそういう力があると、私も信じています。”
5. 国際市場への進出と挑戦
澤村:“ここ数年、山梨のワイナリーが連携して、世界に甲州を広める取り組みを進めています。先日もロンドンでプロモーションを行ってきました。”
福井:“ロンドンですか。どんな反応でした?”
澤村:“あるんですよ、すごい体験が。あの有名なミシュラン三つ星『The FAT DUCK』に伺ったんですが、昆布を使った料理があって、即興で甲州ワインに合う料理を作ってくれたんです。あれは衝撃でした。”
福井:“ロンドンで昆布っていうのも驚きですが、向こうのシェフが即興でペアリングを出してくれるとは、それは本物ですね。”
澤村:その時にシェフに「吟果甲州」を飲んでいただきました。このワインは私たちが新たにチャレンジしたもので、野生酵母を使用し、無補糖・無補酸、アルコール度数は9%と低め。まるでぶどうをそのまま食べたような自然な味わいを目指して造りました。その想いが伝わり、評価していただけたのが本当に嬉しかったです。自分たちのワインが国境を越えて受け入れられる「ボーダレス」な存在だと実感しました。
福井:“今はインバウンドも多いし、日本に来た人にこそ、まず日本ワインの魅力を知ってもらわないと。それが本国に広がっていくきっかけにもなると思います。”
澤村:“そうなんです。国内でも海外でも、知ってもらう活動は大事です。最近では、ワイナリーに外国の方が訪れる機会も確実に増えてきました。だからこそ、腰を据えて、じっくりと世界に向けた発信を続けていきたいと思います。”