フジクレールワイナリー株式会社

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2024.12.19

世界で評価される日本ワインを目指して。日本ワインの現在地と未来

Theo Coles テオ・コールズ

リンカーン大学で栽培学と醸造学を学んだ後、数々のワイナリーで経験を積み、その時に人為的プロセスに一切頼らない、葡萄の良さを最大限に引き出す醸造に目覚めたと言います。現在はNZ North Canterburyで彼自身のレーベル「The Hermit Ram」にて卓越した品質のワインを作り続けております。

2023年フジクレールワイナリーの醸造スペシャルアドバイザーに就任。

澤村:60周年を迎えるにあたり、私たちはワイン造りに対する姿勢を見直そうと考えました。日々の業務の中で、固定観念に囚われていたのではないかと気づいたのです。いくつかの課題に対して「それは無理だ」「今はできない」と言って、自ら可能性を制限していたと感じました。そのために消費者や時代の流れを無視してしまっていて、「持続可能なワインカンパニー」とは言えない状況でした。そこで、最も重要である葡萄栽培とワイン醸造についても、改めて学び直し、次の時代に向けて成長したいと思ったのです。その流れで、テオ・コールズさんとご縁をいただきました。

テオ:最初に声をかけてもらった時、私のことはご存知だったのでしょうか?

澤村:はい、ワインを通じてハーミット・ラムのお名前は知っていましたし、ナチュラルとクラシックスタイル両方のワインを造れる醸造家であると聞いていました。

テオ:それでは、なぜ私に声をかけてくれたのですか?

澤村:私たちは武川の畑を拡大し、より醸造に関してグローバルスタンダードを学びたいと考えていました。国内にも優れた人材は多くいますが、世界で活躍する方から直接技術や知識を学ぶことには、特別な価値があると感じました。甲州やマスカット・ベーリーA(MBA)の可能性をさらに広げるだけでなく、人材育成にも良い影響を与えてくれると期待し、テオさんこそ最適な人物だと確信しました。

澤村:逆にテオさんは最初にこの話を聞いたとき、どう思いましたか?

テオ:最初はプロジェクトについての情報が少なかったので、「とりあえず行ってみるしかない」と思っていました。でも、日本に来て新しい挑戦ができることにワクワクしていましたし、実際に多くの新しい発見がありました。コロナ禍でのロックダウンが長かっただけに、新しい挑戦ができて嬉しかったです。

澤村:テオさんは日本に何度も来たことがあるのですか?

テオ:9~10回は来ていますね。最初は2016年で、その時は自分のワインを売りに来ました。初めて来た時は、美味しい料理や面白い人々に感激しました。料理も繊細で正確性がありました。日本を訪れるたびに、ますます素敵な国だと感じています。
澤村:最初にうちのワイナリーを訪れた時は、どんな印象でしたか?

テオ:以前、北海道のワイナリーに行ったことはありますが、日本のワイナリーにはそれほど馴染みがありませんでした。最初に訪れた際には、「やることがたくさんあるな」と感じました。しかし、ワイナリーの設備や環境が整っているのはもちろん、皆さんが「良いワインを作りたい」という強い思いを持っていることがわかりました。そして、皆さんがオープンな姿勢で、私の話をしっかり聞いてくれたので、非常にやりやすかったです。今まで見てきたものと全く違う環境だったので、まずは基本に忠実にしつつ、ワールドスタンダードを目指して取り組もうと思いました。

澤村:初めてのことばかりで大変だったと思いますが、気をつけたことはありますか?

テオ:最初はわからないことが多かったので、日本人の友人やよく来ているニュージーランドの友人からのアドバイスは大きな助けになりました。日本人との接し方については事前に勉強して、夜は一緒に飲んで、昼はしっかり働くスタイルを心がけました(笑)また、「みんながハッピーかどうか」を確認し、チームの空気感を良くすることが大切だと考えました。最初はみんなのスキルレベルがわからなかったので、経験が少ない人にどう適切に伝えるか苦労しました。まずは基本に立ち返り、ベーシックなことから始め、皆さんもそれにしっかりと取り組んでくれました。

澤村:思い通りにならなかったことはありますか?

テオ:ワイン造り自体がそもそも簡単なものではなく、思い通りにならないことも多いです。ですが、毎年違うものを造っているので、「こうでなければならない」という固定観念は持たず、臨機応変に対応することが大切だと思っています。

澤村:本当にそうですね。テオから教わったこととして、スキル面では温度管理やヘッドスペースの基礎知識を繰り返し諦めずに教えてくれたことが印象的でした。そして、チーム全体がハッピーでないと良いワインはできないという大事な考え方も学びました。

テオ:それはワイナリーだけでなく、どんな企業においても基本的なことだと思います。楽しんで良い製品(ワイン)を作ることが何より大事です。逆に、澤村さんは国内外で多くの賞を受け、高く評価されている中で、ワイン醸造を見直すことに躊躇はなかったのですか?

澤村:全くありませんでした。世界のワインのトレンドが変わりつつあり、山梨の伝統的なワイン造りも大切ですが、現状には行き詰まりを感じていました。「ファーストペンギン」として新たなスタイルのワインに挑戦しようと思ったのです。

テオ:その通りですね。それに気づいたのはどのタイミングですか?

澤村:長年考えていたことでしたが、会社が変革期に入ったタイミングで、これまで考えてきたワイン造りに対して変化を起こすタイミングが合ったのです。そうして2023年のVTが出来上がった時の感想はどうでしたか?

テオ:期待していた以上の成果でした。この1年で経験値を積むことができ、特に杉尾さんはリーダーとして大きく成長されたと思います。ワインメーカーにとって、毎日テイスティングを続けることが重要ですね。澤村さんはどう感じましたか?

澤村:クラノオトの甲州辛口を飲んだとき、セオさんのすごさを実感しました。教えてもらったことをきちんと追求すると、ここまで美味しくなるのかと驚きました。

テオ:やはり選果が大事ですね。

澤村:はい、特に甲州やMBA、明野・隼山・勝沼といった産地の特性を見極めることで、全体のレベルアップが実現できたと思います。テオさんが柔軟に対応してくれたのも、大きな助けになりました。

テオ:各マーケットやお客様の求めているものを大事にしつつ、そのバランスを崩さないよう心がけました。
澤村:実際に販売が始まって、ワインに詳しい方々から「変わったね、良くなったね!」と言われるようになりました。まさにグレートチェンジでしたね。ところで、テオさんから見て日本のワイン業界の現状はどう見えますか?

テオ:日本のワイン業界はとても熱心で、情熱的に取り組んでいる印象です。ただ、世界のトレンドを気にしすぎているかもしれません。例えば、有名なシャルドネを植えるのもいいですが、その土地に合ったブドウ品種を考えた方が良いでしょう。日本でも知られていない土着品種が多くあり、特にフジクレールの隼山シリーズなど、甲州の軽いイメージとは異なり、とても味わい深いワインがあることを知り、驚きました。
澤村:地元ニュージーランドでは、日本のような動きは見られないのですか?

テオ:ニュージーランドでは「適地適品種」の考えが主流で、その土地に適したブドウを選ぶことが重視されています。冷涼で乾燥した気候なので、そうした環境に合わせて品種を選んでいます。北海道でシャルドネを作っているのも興味深いですが、個人的には少し寒すぎるのでは?と感じたりもします。

澤村:なるほど。ニュージーランドのワインの歴史はどうですか?

テオ:もともとは工業製品のようにワインを作ってきたんです。安全なワイン作りが重視されていて、いわば個性がない状態でした(笑)。でも、最近ではとてもナチュラルなワインを作る人たちが増えてきました。大手も手を入れすぎない方法を取り入れ始め、ナチュラルなワイン作りも少しずつバランスを見つけてきたように感じます。大手も変わりつつあり、小さなワイナリーも良くなってきています。

澤村:なるほど。ニュージーランドでも変化が起きているんですね。日本ワインはどういう道を目指すべきだと思いますか?

テオ:美味しいものを作ることが一番大事ですね。「ナチュラルかどうか」は重要ではないと思います。私は美味しいものを作るために、ナチュラルな製法も勉強しています。それに加えて、その土地を感じさせるワインが大事だと思います。ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランのように、飲んだときにその風景や香りを思い出させる唯一のワインを作りたい。結果的に「ここでしか作れない」ワインを目指すべきです。

澤村:そうですね。日本のワインも「日本らしさ」をどう表現するかが課題です。固有品種を大切にしながら、美味しいワインを目指して、日本の食に合うワインを探求していきたいです。

テオ:山梨のワインを飲んでみて、国際品種でグローバルスタンダードに追いつくのは大きなチャレンジだと感じました。ただ、甲州やMBAには他の品種にはない個性があります。それを引き出すことで、人々が驚くようなワインが作れるはずです。今でもここには多くの平地のブドウ畑がありますが、もっと高地に移せばさらに変わるかもしれませんね。甲州とMBAには強みがあると思います。

澤村:そうですね。それを考えて、数年前から私たちも自社畑を高地の明野や武川に活路を見出してきました。
  最後に、テオさんはどのようなワイナリーを目指していますか?"

テオ:ハーミットラムは現在14年目ですが、これ以上大きくしたくないんです。むしろ小規模でもいいかなと思っています。自分の目が届く範囲で心地よくワイン作りを続けたいです。こうして日本に来てワイン作りを教えたり、自分も学び続けていることが楽しいので、今後も続けていきたいと思います。NZらしいワインを目指して、ハーミットラムといえばニュージーランドを代表するワイン、という存在になりたいですね。

澤村:勉強になります。我々もまだまだ学ぶ段階ですが、10年後にはしっかりとしたアイデンティティとポリシーを持つワイナリーを目指し、人々の魂に寄り添えるワインを作りたいと思っています。このご縁に感謝し、これからも進んでいきたいです。いつか一緒に、理想のワインをコラボレーションできる日を楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました!

テオ:こちらこそ。まだ道は続いていますが、これからも一緒に頑張っていいワインを目指しましょう!

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